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はじまりをはじめる


2022.03.09お当番レポ
『はじまりをはじめる』

「今日はサンキューの日だね」
そんな事を話しながらの登園。
最近は卒園式まであと何日か毎日数えては寂しさと喜びの入り混じった複雑な顔をするS。私も最後のお母さん当番の日という言葉に「よし!」と気合いが入る。何か特別な事をするわけではないけど、ちゃんと見て感じよう、逃げずに受け止めよう、と。

朝、今日は私がお当番だよ、と話すと両の手を伸ばしてきたK。Mちゃんに行ってらっしゃいをし、何がしたいか話をしてゆっくり歩きました。
ブランコのところに着くと、私から降りて楽しそうにブランコに揺られるK。木に登るK。色んなこと出来るようになっとんだよ!これが好きなんだよ!って教えてくれてるようで嬉しかったな。

Kがのこぎりを使って木を切ろうとしていたので、近くで見ていたら「あんまり近くに居ると危ないで!」って言ってくれた。
近くにSもいる。見守ってるんだろうな。2人がノコギリを使うときのお約束を教えてくれた。Tが「ぼくものこぎりやりたい」と声をかける。ウェイティングリストに名前が載ったら軍手を取りに行っていた。
「のこぎりがしたい」と思ってのこぎりを使ったことがない私。いつも「この木を切りたい」が先に来る。どちらも間違ってないし、道具を使うのに目的があってもいいと思うけど、「のこぎりをしたい」っていいなぁ。
そんなのこぎりをやってる男子たちのすぐそばではきのこ男子たちが…
それぞれ手に道具を持って土と出逢ってる。「穴を掘る」なんで?って聞かれても困るよね。掘りたいんだよね。今まで穴から出てきたもの、石や虫などの事を教えてくれるのきのこ男子。
のこぎりはいつのまにか終わり、Sくんの折り紙教室が始まっていた。「かえる作ってきたの!見てて!」って嬉しそうに教えてくれるSくん。Sくんの好きが詰まってるんだなぁ。みんなも一緒にかえるを折る。

いつもより遅めの朝の会。お当番で入るのは初めてのたまねぎテント。
テントの中は温かくて、包まれているようで、安心するし、みんなの声がよく聞こえる。朝の会が終わると、きのこさんたちは間もなくランチタイムというタイミング。「片付けたくなーい」と言って遊ぶ子。Yさんと一緒に片付けをする子。行動はまちまちでも今日のようちえんでの時間がもうすぐ終わる、もうすぐお母さんに会える、とみんなが分かってる。

ある時Tがさーっと降りてきてナチュラの旗の陰に隠れるようにしてみんなを見ていた。
「どうしたの?」って声をかけて私の知りたい欲求を満たすことより大事なことがあるような気がしてそのままの場所から見ていた。

上の方では染め紙。
どれもカラフルで、混ざってて、どれも違って、美しい。
すぐにランチタイムが始まり、その後は終わりの会。1番に帰る準備をしてたまねぎテントで待つかりん男子2人が居た。なんとも優しい2人の空気にこちらまでしあわせになる。

今日はSにとって最後のろうそく当番の日。
その瞬間まで私は知らなかった。
入園前はよく一緒にマッチを擦ってろうそくに火を灯していたけど、いつからか「怖い」と言って避けるようになっていたS。一緒にしよう、と言っても「ママがして」と言うばかり。
でも今日は「最後の」と分かっているようで「やりたくない」とは口にしないS。
みんなも口々に気持ちを伝えてくれる。
自分も怖かったこと。火傷もしたけど何回も練習したら出来るようになったこと。マッチじゃなくても怖かった事を乗り越えた経験。
言葉にはならなくても「早くー」とか「帰りたい」とか言わずじっと見つめて待ってくれるみんな。
どれだけの時間が過ぎたんだろう…Sの口から「大人と一緒にやりたい」と言葉が出た。Yさんにそっと包むように手を添えてもらいマッチをゆっくり擦る。火が付いた。「離して」とYさんにもう1人でも大丈夫だとタイミングを伝える。そしてろうそくの火を見つめ、「消したくない。見ていたい」と。
さよならあんころもちの輪、みんなの輪をこれ以上ないくらい感じた終わりの会。
「最後」から逃げず「始まり」をはじめる。
そうなんだ。終わりはいつも始まりで、「最後」は「次の最初」に踏み出す勇気をくれるんだ。いつだって過ぎていく時間は冷たく感じるけど、今はいつもあたたかい。

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